バターといえば「太る」「コレステロールが気になる」といったイメージがありますが、最近よく見かける「発酵バター」はどうなのでしょうか?
発酵、というと体に良さそうな気もします。
一体、普通のバターとは何が違うのでしょう?健康にどう影響するのでしょうか?気になる栄養やリスクについて、詳しく解説します。
発酵バターとは?
バターの中にもいくつかの種類があることをご存じでしょうか。その中でも、特に香りやコクに優れた「発酵バター」は、ここ最近でよく見かけるようになりました。多くの料理人から注目されています。
見た目は普通のバターと変わらなくても、その中身には明確な違いがあります。
普段、スーパーでよく目にするバターは「非発酵バター」と呼ばれるタイプです。
これは生クリームをそのまま撹拌して作られたもので、クセが少なく、どんな料理にも合わせやすいという特徴があります。
一方、発酵バターは製造の途中で乳酸菌が加えられます。生クリームを発酵させてから撹拌するため、できあがるバターには独特の風味が生まれます。
たとえるなら、透明な水にレモンを一滴たらしたように、わずかながら味の輪郭がはっきりするような印象です。
この乳酸菌の働きによって、発酵バターはほんのり酸味を含んだ、まろやかで深い味わいを持つようになります。フランスなどでは一般的であり、家庭の食卓から高級レストランのキッチンまで、広く使われている定番の存在なのです。
風味や保存性の違い
発酵バターの魅力は、その豊かな香りとコクにあります。ほんの少し使うだけでも料理の風味が引き立ち、素材の味をより印象的に仕上げてくれます。
発酵の過程で生まれる有機酸や微量成分が、バターに奥行きを与えているのです。普通のバターでは味が単調に感じられる料理でも、発酵バターを使えば一味違う仕上がりになります。
また、保存性についてもわずかに違いがあります。発酵によってpHが下がるため、微生物の繁殖が抑えられやすくなります。
参考までに。発酵バターのpHは、約4.6〜5.2程度です。バターのpHは、一般的に約6.1~6.4程度。発酵バターの方が、1くらい酸性度が高いのですね。
発酵バターは、通常のバターと同じく冷蔵保存が基本です。冷凍保存も可能です。
このように、発酵バターは「味わいを深めるための選択肢」として、日常の食事に豊かさを添えてくれる存在です。ほんの少し使うだけで、料理がぐっと魅力的になる。そんな力を秘めた食材なのです。
発酵バターの栄養とカロリー
発酵バターは風味だけでなく、栄養面にも特徴があります。
「バター=太る」という印象を持つ人も多いかもしれませんが、摂り方によってはメリットもありるのです。
普通のバターと栄養面で大きな差はないものの、発酵によって生まれる微妙な違いが、味わいや体への影響に関係してきます。
発酵バターの栄養成分とカロリー
発酵バターは、主に脂肪でできています。100gあたりのカロリーはおよそ745kcal前後で、これは普通のバターとほぼ同じです。脂質が全体の80%以上を占めており、その多くは飽和脂肪酸です。
一方で、脂溶性のビタミンも含まれています。特にビタミンAが豊富で、視力や皮膚の健康、免疫機能の維持に役立ちます。また、微量ながらビタミンDやEも含まれており、骨や抗酸化作用に関わる働きがあります。
発酵バターの特徴は、乳酸菌による発酵の過程で生成される有機酸や酵素、風味成分が加わっていることです。
これらは通常の栄養表示には現れませんが、腸内環境への間接的なサポートや、消化の促進などに関与する可能性があると考えられています。
たとえるなら、普通のバターが「エネルギー源」だとすれば、発酵バターは「エネルギー+風味と微細な作用をもつ複合食材」といえるでしょう。
普通のバターとの違いと発酵バターのメリット
カロリーや脂質の量に大きな差はありませんが、発酵バターにはいくつかの利点があります。
まず第一に、風味が豊かであること。これは乳酸菌の働きによって生まれる天然の香りやコクによるもので、食材の味を引き立てる力があります。そのため、少ない量でも料理全体の満足度を高めることができます。
さらに、ビタミンAやEなどの栄養素に関しても、原料となる生クリームの質や製法によっては発酵バターのほうが高い傾向にあるという報告もあります。とはいえ、これは製品ごとにばらつきがあるため、必ずしも一概には言えません。
発酵によるpHの低下が微生物の増殖を抑えるため、保存性がわずかに高まるというメリットもあります。長期保存には向きませんが、一般的な非発酵バターに比べて風味の変化が穏やかになることもあるのです。
ただし、どちらのバターも高脂肪・高カロリーな食品であることには変わりありません。健康を意識するなら、使いすぎず、味を引き立てる「スパイス」のような感覚で取り入れるのがコツです。
発酵バターは健康によいのか?
発酵バターはおいしくて香りも良いけれど、健康にはどうなのか――そう思う方も多いはずです。
脂肪分が多いことは間違いありませんが、それだけで「体に悪い」と決めつけるのは早計です。実は、使い方や量に気をつければ、発酵バターにはいくつかの健康的な側面もあるのです。
期待できる健康効果
発酵バターに含まれる主な脂肪は飽和脂肪酸ですが、この中には短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸も少量含まれており、エネルギーになりやすいという特徴があります。
たとえば朝のトーストに少しだけ塗っておくと、消化が進むにつれてスムーズに体を動かす力になってくれます。
また、発酵の過程で生成される乳酸菌由来の代謝物や酵素、微量の有機酸は、腸内の善玉菌を助ける働きがあると考えられています。
これはヨーグルトほどの直接的な効果はないものの、腸内環境が良くなるように、ほんの少し後押ししてくれるような存在です。
ビタミンAやビタミンEも、健康にとって無視できません。ビタミンAは皮膚や粘膜の保護に関わり、ビタミンEは体内の酸化を防ぐ抗酸化作用を持っています。これらは少量でも体の維持に役立つ重要な成分です。
さらに、発酵バターの香りやコクは、料理の味わいを引き立て、少ない量でも“満足感”を得やすくしてくれます。これは、食べすぎを防ぐ上でも一つの利点です。
注意すべき点とリスク
とはいえ、うっかり食べすぎれば害になります。バター全般に共通することですが、飽和脂肪酸を過剰に摂ると、血中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉)が増え、動脈硬化や心臓病のリスクが高まるとされています。
特に、もともと脂質代謝に課題がある人、高脂血症や高血圧を指摘されている人は、日常的な使用に注意が必要です。どんなに良い食品でも、量を誤れば薬にも毒にもなります。
また、発酵バターの中には有塩タイプもあるため、塩分の摂りすぎにも気をつけたいところです。料理に使うときは、他の調味料とのバランスを意識するのが賢明です。
そしてもうひとつ、乳製品である以上、アレルギー体質の方には注意が必要です。乳たんぱくや乳糖が含まれているため、牛乳アレルギーや乳糖不耐症の人には合わない可能性があります。
このように、発酵バターは体にいい面も持っていますが、すべては「使い方次第」です。
発酵バターを上手に取り入れるコツ
発酵バターは、風味が豊かで栄養も含まれていますが、脂質やカロリーの高さを考えると、やはり“ほどほど”が理想です。
体にいいからといってたくさん使ってしまえば、その良さも帳消しになってしまいます。だからこそ、少量でもおいしく、上手に取り入れる工夫が大切です。
調理や食べ方の工夫
たとえば、美味しいからと、朝食のパンに発酵バターを厚く塗ってしまうと、ついカロリーオーバーしてしまうことがあるかもしれません。パン自体には炭水化物が多く含まれているため、組み合わせによってはエネルギー過多になりやすいのです。
おすすめの使い方としては、パンにたっぷり塗るのではなく、料理やお菓子作りに「隠し味」として使うことです。発酵バターは香りやコクがしっかりしているため、少しの量でも驚くほど味が深まります。
炒め物の最後にひとかけ加えるだけで、料理全体がまとまり、あじわい深いレストランの味に近づきますよ。
もし塩分を気にする場合は、無塩タイプを選ぶのもポイントです。発酵バターには有塩と無塩の両方があり、料理の味付けに合わせて選ぶことで、塩分の摂取を調整しやすくなります。
また、焼き菓子との相性は特に抜群です。フィナンシェやマドレーヌなど、シンプルな素材の焼き菓子に発酵バターを使うと、バターの風味がより一層引き立ちます。普通のバターで作ったときと比べて、香ばしさと口どけの違いを実感できるはずです。
バターは“たくさん使う贅沢品”と考えるのではなく、“少しの量で満足できる香りの調味料”ととらえてみるとよいでしょう。
味と健康、両方を大切にする暮らしに、彩りを与えてくれる食材になります。
まとめ
発酵バターは、乳酸菌で発酵させるというひと手間を加わっている点で、単なるバターとは少し違います。香りやコクが深まり、味わいに豊かさが増しているのですね。
栄養面では、普通のバターとほぼ同じカロリーと脂質を含んでいます。ビタミンAやビタミンE、ビタミンDといった脂溶性ビタミンも摂ることができます。発酵過程で生まれる成分が、ほんのわずかでも腸内環境や消化に寄与する可能性があるというのも、見逃せない点です。
もちろん、健康に良さそうだからといって無制限に食べてよいわけではありません。脂肪分は多く、摂りすぎれば動脈硬化や体重増加のリスクもあります。大切なのは“量”と“使い方”。香りやコクを活かして少量で満足できるように工夫すれば、日々の食事に豊かさと楽しさを添えてくれます。
発酵バターは、料理に奥行きを与え、食卓にほんの少しの特別感を加えてくれる存在です。上手につきあえば、体にも心にもやさしい、頼れる味方になってくれるでしょう。